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AI KAWAMURA
川村愛
『脳を描いてくれ』と由利から連絡があっ
た時に、また私を違うステージに上がらせよ
うとしてるなと思った。
彼と出会った2014年、まだ無名の日本画
家の私は、由利と共に前代未聞の日本画
のライブペインティングに挑んだ。日本画と
いう伝統の枠にはめられていた自分から一人のアーテ
ィストとして飛躍した瞬間だった。 それからは日本画の
技法をベースに表現の幅を広げ、アートフェアやフロリダ
でのアートパフォーマンスなど、ただの日本画家には訪れ
ない経験を積んできた。
そこに由利からの電話である。 そしてインスピレーションが降りてきた。
内 に 秘 めた 魂 が
私は実際に見たことのあるものを基に描 本誌は由利の選りすぐったアーティストが
いている。 『脳』は見たことはない。 名を連ねる。 素 敵な 妹
それでも「愛、お前に描いて欲しい」と言っ それぞれの脳が彼らしか生み出せない貴
てくれた由利の期待に応えたい。 い光を放ち輝いている。
折しも昨年弟が脳出血で倒れた。 さまざまな要素を削ぎ落とし、モチーフの
本質を描くのが私の日本画であり、私の
幸い記憶や言葉には問題はなかったが今 大切にする日本人の美意識だ。
も左手足の麻痺がありリハビリ中だ。
背景は、時の移ろいを表現した焼箔という
弟の脳を想像した。 技法と赤の格子で、アーティストらの経験
と生命の繋がり、流れる血を意味している。
か わ いい か わ いい 弟 の 脳 。聡 明 な
弟 の脳 。 この作品は、確実に私を新たなステージ
に上げた。
そこにはたくさんの思い出や経験が詰ま
っている。その脳なら描きたい。
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