Page 13 - Bonhams French Netsuke collection London November 4, 2020
P. 13
コレクターよりごあいさつ
フランス人蒐集家V氏は、視覚芸術のさまざまな側面に常に情熱を傾けて来ました。若い
頃、氏はパリのエコール・デュ・ルーブルで装飾芸術を学び、彫刻に特に興味を寄せました
が、1962年以降は、中東からの高級生地や絨毯の調達に専門的に携わる様になりました。彫刻
だけでなく、イラン製絨毯などを含む他の芸術への彼の愛情は衰える事はありませんでした
が、1979年にサンフランシスコのエイブリー・ブランデージ美術館を訪れた時、氏は初めて根
付に出会いました。当時、氏は自分が蒐集家になるとは夢にも思っていませんでしたが、パリ
に戻ると真っ先に、これらの小さな彫刻の起源と機能についてできるだけ詳しく知りたい、と
いう思いを強くしました。氏を蒐集の世界に導いたのは、ボーヌ通りにあるアラン・デュクロ
氏のギャラリーで偶然出会ったオーナー、デュクロ氏の稀代の学者的性格の恩恵と言えるでし
ょう。デュクロ氏はV氏の最初の根付の購入を手助けし、その後もフランス及び海外でのオー
クションに於いて、更なる作品の獲得を支援しました。
V氏は、蒐集を始めた初期の頃に於いて、心に残る二つの感動的なエピソードを忘れる事がで
きません。1番目のエピソードは1982年に起こりました。V氏はジュネーブにてバウア・コレ
クションの 極めて質の高い作品の数々を鑑賞する、忘れられない一日を過ごします。当時、
美術館への訪 問者は、監視されずに一人残され、宝物でいっぱいの引き出しを次々と自由に
開け、各作品を ゆったりと手に取り鑑賞する事が許されたのです。この時の、友忠、正直、
為隆、豊昌などの 巨匠による根付の記憶は、今でも氏の脳裏に鮮明に焼き付いています。
2番目のエピソードは1983年。他の蒐集家と連絡を取ろうとしていた際、リヨン在 住のある女
性に紹介されました。その女性がよく通う骨董商の店で会う約束をし、すると、その場に彼女
は新聞紙に包まれた小さな物がたくさん詰まった2つの靴箱を持って現れました。彼女の名前
はグランヴィネット婦人であり、20年後、彼女が根付コレクションをロンドンにて販売した
際、V氏はコレクションの中から美しい作品2点を購入する機会に恵まれました。阿蘭陀人
(ロット30)と虎渓作の獅子です。
長年に渡り、古美術商や他の専門家達と交友関係を築き、根付に関して学べるだけの全てを吸
収した結果、V氏は知識を深め、鑑定眼を養う事ができました。日本文化の世界を発見した後
は、1983年に日仏協会の会員になり、四半期刊行物の発行を熱心に待ち望みました。数多くの
根付作家の中でも、為隆、岷江、虎渓と言った作家に、特に愛着を感じる様になります。
バルバンソン、コービン、ビーズリー、ニューステッドなどの著名な蒐集家所有の根付が、氏
のコレクションに次々に加えられてきました。時は経ち、今ここに、V氏のコレクションの作
品を分散させ、これらの素晴らしいミニチュア彫刻 - 根付を、V氏が楽しんだと同様に、皆様
に楽しんでいただく機会を提供する時が来たのです。