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まえがき
Blasiusらは, 1つの細胞の生体時計の機構を 4次の 非線形微分方程式としてモデ、ル化している.このモデ ルで、は, 1つの細胞の 3つ反応体プール(細胞内の CO2, 細胞質内のリンゴ酸,液胞内のリンゴ酸)の濃度と液 胞のリン脂質分子の表面濃度に対する膜配列の平均値 を状態変数の 4つの非線形微分方程式を提案し,実験 データから各種ノ号ラメータを無次元量として与え,連 続光下でリミットサイクルが発生することと明暗光の 影響,温度変化,膜配列へのノイズの影響などをシミュ
レーションにより行っている 5,6)
また我々は, Blasiusらのモデルにおいて,人工環境 想定した連続光,一定温度条件下で,細胞内の CO2, 細胞質内のリンゴ酸,液胞内のリンゴ酸が測定可能と いう条件下で,液胞内リンゴ酸濃度と液胞膜内リン脂 質分子の輸送現象を特定する膜配列の非線形特性を推 定するオブザーバを提案し, MATLABシミュレーショ
ンを行った 7,8,9) しなしながら,細胞内の CO2濃度 は,他の状態変数よりも将来リアルタイム計測ができ る可能性があるが,現状で計測するのは難しい.この ため,現状でも測定可能である外気からの二酸化炭素 取り込み量である.そこで,外気からの二酸化炭素取り 込み量と細胞内の CO2濃度は非線形代数方程式で関係 づけられていることから,我々は測定値から細胞内の CO2濃度を計算する方法を提案し,細胞内の CO2濃度 のみの情報を用い,操作量に外部 CO2,光の強度を用 いて,生体リズムの周波数と位相を制御するフィード ノてック制御系およびフィードフォワード制御系を構成 した 10) さらに,甲斐らの Blasiusのモデルを用いた 多細胞結合モデ、ル 1,12) を,細胞外への炭水化物の流 入出が維管束による細胞間結合であるという仮定に基 づき,細胞内の CO2濃度の流束だけに細胞閣の CO2 濃度の差がフィード、バックされる 2細胞同期モデルを 提案し,このフィードバック結合が同期にどのような影 響 を 与 え る の か を , M A T L A BjSimulink に よ り シ ミ ュ レーションを行った.しかしながら,細胞外への炭水化 物の流入出がどのような機構で行われているかは,モ
CAM植物のショ糖ホメオスタシス調整機構のモデル化 O川崎圭亮,末光治雄,松尾孝美(大分大学),小西忠司,十時優介(大分高専)
ModelingofofSucroseHomeostasisFeedbackSysteminCrassulaceanAcid Metabolism
必 Kawasaki,H.Suer凶 su,T.Matsuo(OitaUniversity) T.Konishi,Y.Totoki(OitaNationalColegeofTechnology)
Abstract- Themechanismofendogenouscircadianphotosynthesisoscilationsofplantsperformingcras- sulaceanacidmetabolism(CAM)isinvestigatedintermsofanonlineartheoreticalmodel. Blasiusetal. usedthroughoutcontinuous七imedi百'erentialequationswhichadequatelyreflect七heCAMdynamics.Satake etal. haverecentlyreportedtherelatioshipamongstarchbreakdown,sucrosehomeostasisandcircadian rhythm. Inthisreport,weembedthesucrose-starchdynamicsintotheCAMdynamicsandproposethe starchdegradationrateincludingthestarchandsucrosefedbacktermsusingtheslopeofthestarchtrend.
KeyWords: Photosynthesis,circadianrhythm,starchandsucrosemetabolism
植物の光合成には, C3型, C4型,および CAM (CrassulaceanAcidMetabolism) 型がある.サボテ ン な ど の 多 肉 植 物 は , C A M型 光 合 成 と 呼 ば れ る 乾 燥
環境に高度に適応した炭素代謝機構を進化させており, 気温が下がった夜間に気孔を聞き空気中の二酸化炭素 を取り込み,酵素である PEPcを用いて有機酸,通常 はリンゴ酸として固形化し,夜間ではこれを細胞内の 液胞に貯え,高温・乾燥した日中には,気孔を閉じて水 分の蒸発を抑え,葉の中でリンゴ酸から炭水化物を合 成することができる.このような意味から, C A M型光 合成は二酸化炭素を濃縮させ,水分消費を節約する機 構を備えた光合成における特別のモードであるといえ, 二酸化炭素の取り込みと光合成の概日リズムをもって いることになる.驚くべきことに,昼夜のサイクルを人 工的に取り除いて一定環境にしたとしても同じリズム が多くの時間(ある例では数週間)にわたって継続する
ことがわかっている .このことは, CAMサイクルは外 界の影響を受けない自由駆動する体内リズムになって いることを意味している.そこで,砂漠化,食料問題, 二酸化炭素削減問題の改善のために,他の C3,C4植物
(イネ,麦など)以上に応用が期待されている. CAM 植物の概日リズムのシステマティックな制御法は,食 料生産の最大化,二酸化炭素削減効果の増大に寄与す
るものであり,人工的な制御法の確立は, CAM植物工 場の実現に必要不可欠なものである 1,2) 植物の概日 リズムは,各細胞の振動子が同期して全体のリズムを 生み出す 3) 健康な植物は,安定なリズムに引き込ま れるように細胞振動子が同期状態を維持していると考 えられている.このため,細胞間の同期を維持するよ うな制御方法は,食糧生産のキーとなる技術である 4) 実験に加えて, CAM植物の数理モデリングは,非侵襲 の細胞内部状態の測定技術や実験での検証の難しいよ うな砂漠環境や宇宙環境で制御技術の開拓を担うこと
ができ,食糧生産能力の向上に一役買うことが期待さ れ て い る 1)