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口の爆発的増大および地球温暖化を原因とする異常
気象による食糧危機の可能性を考えると 3 生産され た食糧を最大限に活用するため,低温保存技術の役 割は一層重要になることが予想される. 一方3 理想 の低温保存技術とは,寄生虫や細菌が活動できない ほどの低温にもかかわらず,氷結品を形成させずに 生きた状態を保ったまま保存することと考えられて いる.しかし,一般的に生体材料は多くの水を含ん でおり 3 冷却の進行に伴い過冷却状態を経てまず細 胞外の凍結が生じ,さらに,凍結条件や試料の状態 により細胞内凍結に至る場合もある.この細胞内凍 結は細胞を確実に死に至らしめる 1-3). 現在のところ, 過冷却状態を安定的に保つ技術は実現で、きていない. この様な中,著者らは新たな低温保存手法の可能性 を探るため 3 冷却中の植物組織へ電流負荷を試みて きた.その際,低温顕微鏡に高速度カメラもしくは 冷却 CCDカ〆ラを取り付け,植物細胞の細胞内凍 結における氷結晶成長の様子を観察してきた .その 結果,電流負荷は細胞内凍結が生じる際の氷結晶形 成の挙動および細胞内凍結開始温度に影響を与える ことを見出したの.今のところこの原因は全く分か らないが, 一つの可能性として,電流負荷が細胞活 性 に 何 ら か の 影 響 を 与 え た 結 果 生 じ た 現 象 で あ る こ とを考えている.
これまで3 細胞活性の一指標として細胞質基質 pH (pHi)がしばしば用いられてきた.例えば3 ある種 の植物では,冷温もしくは凍結ストレスを受けると ストレスの進行に伴い pHiは弱アルカリ性から酸性 化し,そして酸性化が進むと死に至ると言われてい
る5).これに関連した研究として, MuraiandYosbida (198) は,凍結環境下における pHiの酸性化と,
pHiと生存率の関係を調べ, pHiが高いほど生存率が 高くなることを報告しているの.
本研究では3 このような結果を踏まえ pHiに着目 し,冷却速度を変化させるとともに電流負荷の電流 および波形のパターンを変化させ,効果のある電流
負荷を模索しながら,キクイモ,タマネギの植物組 織を用いて冷却実験を行った. pHiの推移は蛍光強 度比法により測定した .得られた結果から,電流負 荷による冷却進行に対する pHiの推移の差異を明ら かにすることにより,電流負荷が冷却進行中の植物 細胞の pHiにどのような効果を与えているのかを検 討 ,し た ・
実験装置および方法
1. 実 験 装 置 実験は,倒立型顕微鏡(区71,OLYMPUS) に高速
度カメラ (PhantomV4.2,V1SIONRESEARCH),f令 却 CCDカメラ (DXM1200C,Nikon),通常の CCD カメラを設置するとともに,コンピュータ制御によ
る冷却速度の設定が可能な冷却ステージ (STC200, INSTEC)を取り付けた低温顕微鏡システムを用いて 行った.
2. 試料と pHi計測方法
本研究では試料として, 2014年 1月中旬から 3月
上旬にかけて神奈川工科大学キャンパス内の畑で収 穫したキクイモ (HelianthustuberosZlsL.)の塊茎組 織と, 2014年 4月下旬から 6月中旬にかけて厚木市 内 の 農 産 物 直 売 所 で 購 入 し た 新 タ マ ネ ギ (Al liu1 1 1 cepaL.)鱗茎葉の表皮組織を用いた.
pHiの計測には,励起波長 500nmで pHへの高い 依存性を示す一方,励起波長 440nmで pHへの依存 性をほとんど示さなし¥.等吸収点の性質を持つ蛍光 試 薬 F D A と BCECF-AM を 用 い た .pH値 の 評 価 は , 蛍光の退色の影響を防ぐため,上述の性質を利用し, 両波長の蛍光強度比を用いて行った.これらの蛍光 試薬による試料の染色は,各組織を 10mm角で切り 出し,蛍光試薬及び試料の種類によって蒸留水中に おける蛍光試薬のモノレ濃度,およびインキュペーシ
ヨン温度と時間を変化させて行った (Table1). Table1.Conditionsofdyeingatisue.
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3. p H 検 定
p H 4 . 0 1 , 6 . 8 6 , 9 . 1 8 の p H 標 準 液 ( 東 京 硝 子 器 械 )
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