Page 177 - Christies March 15 2017 Fujita Museum
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かった “亜長” の方尊があげられる(Yue Hongbin ed., Ritual Bronzes Recently 術館の作品に最もよく似た方罍が、京都の泉屋博古館・住友コレクションと、東
Excavated in Yinxu, Kunming, 2008, pp. 156-7, no. 64 を参照)。研究者の中に 京の根津美術館に所蔵されている(『泉屋博古:中国古銅器編』、京都、2002 年、
は、上から押しつぶされたような、ずんぐりした形の方尊は黄河中流域に固有の 97 頁、114 番と根津美術館『館蔵 殷周の青銅器』、東京、2009 年、33 頁、12 番
タイプで、背の高い方尊は、揚子江流域の尊の形に影響を受けたものであると指 を参照;図 4)。この三つの方罍には、形、装飾の配置、鋳造技術など、多くの
摘するものもいる。4 考古学者によると、花園荘東地 M54 号墓の主である亜長は、 類似点がある。この 3 点は同じグループに属するものと見ることができ、殷墟の
中国南部からやって来た、地方勢力の首領クラスの人物と推定され、商の都であ 初期の時代のものと考えられる。
る殷墟で暮らし、その地に埋葬されたという。5 藤田美術館の作品のように、背
の高いプロポーションをした安陽の方尊は、中国南部の青銅器に影響を受けたも 鋳造の点から見ると、藤田美術館の方罍に最も顕著な特徴は、プレキャストの
のと推測して間違いないだろう。 技術が用いられている点だ。D のような形をした把手(図 5)など、突き出た部
分の多くは、事前に成型された後、溶解銅が注ぎ込まれる時にしかるべき場所
方罍(ロット 524)は、安陽の青銅器の中でも最もモニュメンタルで建築的な形 に固定されるよう容器の型にはめ込まれた。プレキャストは商王朝の青銅器の鋳
をしたもののひとつである。婦好墓からは、脚や稜のない一対の方罍が見つかっ 工によって採用されたかなり珍しい技術で、この技術が用いられた商代の青銅
た(Tomb of Lady Hao at Yinxu in Anyang, Beijing, 1980, pl. 32 を参照)。考 器のうち、知られている中で最古のものは、陝西省岐山県何家村で発見された
古学者 向桃初と呉小燕は、商王朝と周王朝の方罍についての包括的な概論の中 鳳凰の突起状の装飾のある斝である(Zhongguo qingtongqi quanji [Complete
で、稜のない方罍は、最も初期のものであると示唆している。6 藤田美術館の方 Collection of Chinese Bronzes], vol. 4, Beijing, 1998, nos. 59-61 参照)。この
罍とよく似た作例が二点見つかっているが、ひとつは上海博物館が所蔵する蓋の 技術は当初南部の鋳造所が考案し、後に安陽にも導入された。商王朝に関する
ない方罍、もうひとつは遼寧省博物館が所蔵する “登屰” 方罍である。この二つ 考古学的研究により、持ち主の地位が高ければ高いほど、所有する青銅器の器
の方罍は、『中国青銅器全集』の中で商王朝晩期のものとされている(Zhongguo 形が多岐にわたったことが知られている。こうした青銅器の中には、藤田美術館
qingtongqi quanji [Complete Collection of Chinese Bronzes], vol. 4, Beijing, の方尊や方罍に見られるように、芸術的、技術的に多様な要素を見事に統合させ
1998, nos. 112 and 113 を参照;図 3)。これらを藤田美術館の方罍と比較すると、 たものもある。
上海博物館と遼寧省博物館の方罍の稜には突起状の装飾が鋳出されており、比
較的後の時代のものであることがわかる。洛陽市北窯で見つかった別の方罍は、 藤田美術館所蔵の瓿の大きさは、知られている瓿の中でも最大の部類に入る。婦
装飾意匠の点では婦好の方罍と似ているが、藤田美術館の方罍と非常によく似た 好墓からは三点の瓿が出土していて、いずれも蓋付のものである。もっとも大き
稜が見られる(同上書 , vol. 5, no. 177 を参照)。したがって、洛陽と藤田美術館 なものは高さ 47.6 cm で銘がなく、それより小さな二点は高さがそれぞれ 33 cm
の方罍は、上海博物館の作例より早い時代のものと考えるべきである。藤田美 と 34.2 cm で、“婦好” の銘が見られる(Tomb of Lady Hao at Yinxu in Anyang,
4 The Hunan Provincial Museum and Shanghai Museum ed., ‘Min’ Fanglei and Selected 6 Wu Xiaoyan, Xiang Taochu, ‘Shangzhou qingtongqi fanglei xulie ji Min fanglei de niandai
Bronze Vessels Unearthed from Hunan, Shanghai, 2015, p. 104. wendi’ (Issues on the Chronology of Shang and Zhou fanglei and the date of Min fanglei),
Wenwu, February 2016, pp. 57-72.
5 He Yulin, ‘Yinxu Huayuanzhuang Dongdi M54 muzhu zaiyanjiu’ (Rethinking of the Occupant
of Yinxu Huayuanzhuang Dongdi M54), Sandai Kaogu (Archaeology of the Three Dynasties), 7 Robert W. Bagley, ‘A zun from Yang Xian’, Shang Bronzes from Hanzhong, vol. 4, Chengdu,
vol.5, Beijing, 2013, p. 115. 2011, pp. 570-625.
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