Page 178 - Christies March 15 2017 Fujita Museum
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Beijing, 1980, colour pl. 5 and pl. 29 を参照;図 6・7)。藤田美術館所蔵の瓿は、                              たもの、もうひとつはワシントン D.C. のアーサー・M・サックラー・コレクション
ドーム状の蓋がより丸みを帯びているものの、形や装飾の面では婦好の瓿と極め                                                       に入っているものである(Zhongguo qingtongqi quanji [Complete Collection
てよく似ている。藤田美術館の瓿は婦好墓から見つかった三点と同時代のものと                                                       of Chinese Bronzes], vol. 4, Beijing, 1998, no. 91 および Robert W. Bagley,
見て間違いないだろう。藤田美術館の瓿のサイズがより大きいという事実は、持                                                       Shang Ritual Bronzes from the Arthur M. Sackler Collections, Cambridge:
ち主の地位がより高いものであったことを示唆している。                                                                 Harvard University Press, 1987, no. 74 を参照;図 8)。バグリーは、この二つ
                                                                                           の作例は象を表現しようと意図して作られたもので、南部の青銅器の典型的様式
殷墟の時代には、銅の鋳造の際、粘土の芯を主要部分の粘土型から自立した状                                                        を示していると述べている。7 藤田美術館の觥とこの二つの作例はおそらく同時代
態で支えるために、スペーサーが広く用いられたが、そのことによって、容器の壁                                                      のもので、同じ鋳造所で鋳造されたものと考えられる。8 揚子江流域で鋳造された、
の均一な厚さが確実に得られるようになった。ときには、収縮による亀裂を防ぐ                                                       商王朝期の青銅器に関する最新の研究によると、同様の青銅器が安陽のものより
ため、本体から突き出た部分の内部に粘土芯が入れられることもあった。突起部                                                       前に南部で鋳造されていたという。南部の影響を受けた安陽の青銅器は、武丁の
分の内部に粘土芯が用いられている例を、藤田美術館の瓿の肩部分の動物の頭                                                        治世に南部の職人が安陽へ移住してきてから鋳造されるようになった。9 したがっ
のレリーフのひとつにある小さな欠けから見ることができる。欠片の内部の素材                                                       て、藤田美術館の觥の年代も、殷墟時代の初期と考えるべきだろう。また、技術
は溶けた銅を注ぎ込む際に焼けて赤っぽくなった粘土芯で、動物の頭頂部にある                                                       的特徴のひとつは、藤田美術館の羊形の觥が中国南部で作られたものであること
小さな穴は、粘土芯を内部で固定するために、穴から型の外側部分に芯が突き出                                                       を示している。鳳凰の目や翼の文様など、レリーフ状の部分の内壁には、それとぴっ
していた部分である。                                                                                 たり合うくぼみがある。これは青銅器の壁の厚みを均一なものにするために南部
                                                                                           の職人が一般的に用いていた技術である。
完全に彫刻的な動物の形をした器種は、中国古代の青銅器の中でも非常に稀で
ある。藤田美術館の羊形の觥は、その極めて愛らしい羊の姿ゆえにとりわけ魅                                                        南部で作られた羊形の觥を別として、ここで分析した藤田美術館の他の三点の器
力的だ。婦好墓からは三点の觥が発見されているが、そのうちの二点である司母                                                       種は古代安陽の青銅器である。これらは婦好墓で発見された青銅器と同時代の
辛觥は、こわばった姿勢で立つ四肢動物である(Tomb of Lady Hao at Yinxu in                                         ものだが、その美学的・技術的成果は婦好の青銅器を凌駕している。この両者の
Anyang, Beijing, 1980, p. 59, colour pl. 9 参照)。司母辛觥は非常に様式化され                               違いは、藤田美術館の三点の青銅器が婦好よりもさらに高い地位にある者、おそ
ていて、特定の種として識別することはできない。藤田美術館の觥に最も近い例                                                       らくは王のために作られたものであることを示唆しているのではないだろうか。
は、一風変わった頭部を持つ二つの觥で、ひとつは陝西省洋県張家村で見つかっ

8 Robert W. Bagley, Shang Ritual Bronzes in the Arthur M. Sackler Collections, Cambridge:  9 Su Rongyu, ‘Hunansheng bowuguan cang liangjian dakouzhejian qingtong yuanzun de
Harvard University Press, 1987, pp.416-420.                                                yanjiu’ (Research on Two Bronze Zun Vessels in the Hunan Provincial Museum), Hunan
                                                                                           Shang Xizhou qingtongqi guoji xueshu yantaohui lunwen (Essays from the International
                                                                                           Symposium on Shang and Western Zhou Bronzes from Hunan, Changsha: 27-28 August
                                                                                           2015; Su Rongyu, ‘Anyang yinxu qingtong jishuyuanyuan de Shangdai nanfang yinsu’ (The
                                                                                           Southern Origin of Bronze Techniques Found on Anyang Yinxu Bronzes), Quanwu toushang:
                                                                                           quanwu boguguan qingtongqi toushe saomiao jiexi (Analysis of Bronzes in the Sumitomo
                                                                                           Collection Based on CT Scanning Images), Beijing, 2015, pp. 352-386.

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