Page 256 - Christies March 15 2017 Fujita Museum
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仏教-東洋の光

ロバート・D・モウリー(ハーバード美術館アラン・J・ドワーズキー 中
 国美術名誉キュレーター;クリスティーズ シニア・コンサルタント)

藤田美術館から出品される中国美術の作品の中に、当時礼拝の対象として用い                                                             場合によっては仏陀とそれぞれの菩薩の間に弟子、集団の一番外側には護法神と
られた稀少な仏碑像三点が含まれている。年代が 526 年と同定されている、小                                                          いうように。また、天使とよく似た飛天と呼ばれる天人がしばしば上部を舞い、
さな釈迦三尊像は、仏教寺院の須弥壇もしくは裕福な一族の私的な礼拝堂に設                                                             仏陀を崇め、楽を奏し、花や供物を捧げている。
置されていたものだろう。また、残りの柱状の仏碑像二点は、寺院か公共の広場
のような場所に設置されていたものと考えられる。この三点の仏像彫刻に見られ                                                            仏碑像を含め、最も伝統的な中国の木造または石造の彫刻は、元々できるだけ自
るように、北魏(386-534)、隋(581-618)、唐(618-907)へと時代を経る                                                   然主義的かつ輝いて見えるように彩色され、場合によって、顔やその他の肉体の
につれ仏像の数は次第に増加し、図像学的な構成はますます複雑なものとなって                                                            部分はさらに金箔で装飾が施された。こうした彫刻で現在も色彩が残っているも
いった。本論では仏像の図像学を紹介し、この三つの石仏に見られるような北魏                                                            のは僅かしかないが、藤田美術館の三点の稀少な仏碑像に見られるように、多く
から唐にかけての彫刻様式の発展について簡単に述べたい。1                                                                    はその豊かな色彩の痕跡を伝えている。

中国の仏碑像は、北魏時代に初めて登場するが、その起源はインドの仏碑像や中                                                            526 年(孝昌 2 年)の作とされる、藤田美術館蔵の見事な釈迦三尊像は、イン
国の伝統的な「碑」に求めることができる。中国の伝統的な石碑は、漢(紀元前                                                            ドの仏碑像、特にグプタ朝時代(320-550 年)5 世紀後半にウッタル・プラデー
206-220)代以降よく知られており、垂直に積み上げられた大きな塔で最上部                                                          シュ州サールナートで彫られたタイプのものが、中国でどのように翻案・解釈され
が丸みを帯び、葬儀、慰霊、もしくは教訓のためのテクストが刻まれた、長方形                                                            たかを示す代表的な作例である。こうしたグプタの仏碑像では、仏像が(しばし
の石のブロックでできている。対照的にインドの仏碑像は、絵画的で仏陀や関連                                                            ば仏陀が単独で)台座の上に提示され、上部が丸く縁が数珠状になった垂直の光
する諸仏のイメージが示されている。中国の仏碑像の中には藤田美術館の 526                                                           背を背景に、くっきりした高浮き彫りで表象される。3 このタイプが中国で変容し
年の三尊像に見られるように、インドの仏碑像タイプが中国で変容したものもあ                                                            た仏碑像では、複数の仏像が左右対称のグループに、階層的に配置されるなど、
れば、隋・唐時代のものと考えられる藤田美術館のその他二点のように、中国の                                                            様式化されている。加えて光背は、その頂点に小さな点を備えた蓮の花弁状の形
伝統的な石碑を再解釈したものもある。後者のようなタイプでは、垂直性や最上                                                            であるだけでなく、非常に装飾的なものとなっている。また、台座の部分は、通常、
部の丸い長方形のフォルムはそのままに、テクストが仏のイメージに置き換えられ                                                           献辞にあてられ、多くの場合僧侶と寄進者の名前と共に日付が刻まれた。
ている。2
                                                                                                526 年の釈迦三尊像は藤田美術館の三点の仏碑像の中で最もシンプルだ。その
仏教美術の作品は美術館や博物館では、大抵一点ずつバラバラに展示されるが、                                                            中央に、腰かけた仏陀(歴史上の仏陀釈迦牟尼仏)をとらえ、両側に菩薩立像を
元々のコンテクストでは、実際、ほとんどの場合グループとしてまとめて提示され                                                           配し、それぞれの菩薩の足元には獅子がうずくまっている。仏像は文字が刻まれ
ていた。というのも、仏教美術は諸仏を欠けたところのない纏まりとしてとらえて                                                           たテーブルのような形の台座の上に提示され、複雑な装飾が施された蓮の花弁の
おり、仏碑像にはそのように集団として示された仏像と、伝統的な仏像の配置の                                                            ような光背が三体の仏像の背後に見える。静謐で穏やかな仏像は、深遠な精神
仕方についての理解を伝える役割があったからだ。通常こうした集団には奇数体                                                            性を体現している。仏陀は右手を上げて施無畏印(「恐れなくてよい」という仕草)
の仏像が含まれ、階層的に配置された。中央に仏陀、その両脇に菩薩、そして、                                                            を、左手は下げて与願印(相手に何かを与える仕草)を結び、この二つの印相で

1 特に中国における仏教とその歴史については次を参照: Kenneth K. S. Chen, Buddhism: The                                   2 中国の仏塔の展開と発展については次を参照: Dorothy C. Wong, Chinese Steles: Pre-
Light of Asia, (Woodbury, NY: Barron’s Educational Series), 1968; Arthur F. Wright, Buddhism    Buddhist and Buddhist Use of a Symbolic Form, (Honolulu: University of Hawaii Press), 2004.

in Chinese History, (Stanford, CA: Stanford University Press), revised edition, 1971 [中国語訳      3 5世紀後半のサールナートで彫られた仏像の例として次を挙げておく: ニューヨーク アジア協
は次を参照のこと。(美)芮沃壽著『中國歷史中的佛教』北京市: 北京大學出版社、第1版、2009];                                               会美術館 ジョン・D・ロックフェラー夫妻コレクションの仏立像 (1979.5) あるいはロンドンの
Kenneth K. S. Chen, The Chinese Transformation of Buddhism, (Princeton, N.J.: Princeton         大英博物館所蔵の同種の仏像 (Asia 1880.15)
University Press), 1973; Erik Zürcher, The Buddhist Conquest of China: The Spread and
Adaptation of Buddhism in Early Medieval China, (Leiden, The Netherlands: Brill), 3rd edition,

2007.

254 IMPORTANT CHINESE ART FROM THE FUJITA MUSEUM
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