Page 257 - Christies March 15 2017 Fujita Museum
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教えを説いていることを示している(仏の手の仕草、ムドラー〔手印または印相〕は、                                                           布、豊かなシルクの錦織りの腰布を纏い、ネックレス、アームレット、ブレスレッ
特定の動作や姿勢、あるいは仏の力を象徴している)。二体の菩薩は胸の前で掌                                                              ト、アンクレット等、数多くの宝飾品を身につけ、526 年の釈迦三尊像に見られ
を合わせ、深い崇敬の念を示す仕草である、合掌印を結んでいる。                                                                    るようにしばしば王冠をかぶっている。菩薩も仏陀と同様に細長い耳朶で描かれ
                                                                                                  るが、仏陀と違ってイヤリングを身につけている。足は裸足かサンダルを履いて
当然のことながら、仏陀はこの三点の仏碑像のいずれにおいても、最も重要で中                                                              いる。決められた印相が与えられているわけではないが、しばしば合掌印を結ん
心的な仏像として提示されている。“仏陀” という言葉は “悟りの境地に達した者”                                                          でいる。
を意味する。4 仏陀は悟りを開き、ニルヴァーナ、涅槃に到達した人物である。仏
陀は僧侶の姿で示され、一般的に、一つの頭部、二本の腕、二本の脚を持つ姿                                                               釈迦族(シャーキャ族)に生まれた歴史上の仏陀(紀元前 563 〜 483 年頃)は、
で表現される。そして、立像または坐像で示され、常に慈愛に満ちた表情をして                                                              伝統的に釈迦牟尼、あるいは “釈迦族の聖者” と呼ばれている。また、仏陀はし
いる。僧衣を纏い、裸足かサンダルを履いていて、通常、宝飾品は身につけずに                                                              ばしば “釈迦族の獅子” とも呼ばれ、各菩薩の足元にうずくまる獅子の存在はこ
描かれる。細長く伸びた耳朶は王子だった若い頃に重いイヤリングをしていたこと                                                             こに由来する。獅子は仏陀を護る役割だけでなく仏教の教え、場合によっては仏
に由来し、世俗生活を断って信仰生活を選んだことを象徴している。頭部は剃髪                                                              陀自身を象徴している。
しているか、小さな渦巻状の巻き毛(螺髪)か、526 年の三尊像のように波状の
巻き毛で表象されることもある。いくつかの経典には、仏陀が “三十二相” の特                                                            526 年の釈迦三尊像に表象されている仏像の様式は、河南省洛陽白馬寺の有名
徴を備えていたと記されている。三十二相のうち、よく表現される典型的なものは、                                                            な菩薩坐像の様式と密接な類似性がある。この菩薩坐像は 530 年頃の作で、現
白毫相または額中央の丸い印、手足の指の間の水かき(手足指縵網相)、肉髻(頂                                                             在はボストン美術館に所蔵されている(13.2804)。これらの仏像の四角い顔は
髻相)である。肉髻は頭頂部が隆起したもので、悟りで得た叡智を象徴している。                                                             様式的に非常に似通っており、加えて、曲線的で折り重なるように垂れ下がるボ
実際、肉髻は仏陀に固有の図像学的特徴で、こうした図像学的属性を与えられた                                                              ストンの菩薩像の衣の襞は、526 年の三尊像の中央の仏陀のそれと極めて類似し
仏はほかにない。                                                                                          ている。さらに、526 年の三尊像の二体の菩薩立像のスカーフ状の布は、ボスト
                                                                                                  ンの菩薩像のものとそっくりな形で肩から垂れ下がり、腰のところで優美に交差し
仏碑像が表象しているのが仏陀だけでない場合は、次に描かれるべき必須の仏は                                                              ている。
菩薩である。526 年の釈迦三尊像に示されているように、菩薩は通常一対で登
場する。菩薩とは “悟りを開いた者” を意味する。悟りを開いているにもかかわら                                                           藤田美術館の 526 年の釈迦三尊像と、ボストン美術館の菩薩坐像に示されてい
ず、悟りを求める他の衆生を助けるために、涅槃に入ることを先送りにしている慈                                                             るように、520 年代 -530 年代の中国の仏像は、独自に発達した凝った衣装を身
悲深い存在である。菩薩は仏陀が仏陀になる以前の、若い頃の世俗的地位と関                                                               に纏っている。衣が非常にゆったりとしているため骨格は覆い隠されており、場
連付けられ、古代のインドの王子の姿で描かれる。大抵、ひとつの頭部、二本の腕、                                                            合によっては衣が覆っている体の存在さえ定かではない。そのため、526 年の三
二本の脚を持つ姿で描かれ、豪華な身なりに長髪で、しばしば頭頂部に団子やま                                                              尊像の仏陀の衣の下部は、仏陀の脚を覆い隠すたっぷりした襞と共に台座へ滝の
げを結い上げ、髪の房(垂髪)を肩に長く垂らしている。装飾的なスカーフ状の                                                              ように流れ落ちている。腰の下で衣から突き出ている上を向いた足だけが、仏陀
                                                                                                  の脚の存在を示唆している。

4 仏教美術については次を参照: Pratapaditya Pal et al., Light of Asia: Buddha Sakyamuni in
Asian Art, (Los Angeles: Los Angeles County Museum of Art), 1984; Denise Patry Leidy,
Donna Strahan, et al., Wisdom Embodied: Chinese Buddhist and Daoist Sculpture in the
Metropolitan Museum of Art, (New York: Metropolitan Museum of Art and New Haven: Yale
University Press), 2010; Marsha Weidner, ed., Latter Days of the Law: Images of Chinese
Buddhism, 850-1850, (Lawrence, KS: Spencer Museum of Art, University of Kansas, and
Honolulu: University of Hawaii Press), 1994; Pratapaditya Pal, The Arts of Nepal, (Leiden, The
Netherlands: E. J. Brill), 1974; Pratapaditya Pal, ed., On the Path to Void: Buddhist Art of the

Tibetan Realm, (Mumbai: Marg Publications), 1996.

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