Page 23 - Sotheby's New York Linyushanren Part IV Auction September 13, 2018
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違いが見てとれる。いわゆる「掻落とし」とよばれる技法は、淡黄褐色 のなかにもいくつかこの技法が用いられている作品がある。(ロット2,
の素地に白化粧土をかけて乾かし、さらにその上から黒か濃褐色の化粧 831, 830, 837, 841)ロット835の虎型の陶枕には虎皮の模様のコントラ
土をかけ、二層目の化粧土も乾くと模様の輪郭が黒の化粧土の上から刻 ストを際立たせるよう琥珀色の顔料も使用されている。このタイプの虎
まれ、そののち、黒泥を背景から取り除き、その下の白化粧土を無傷の 型の陶枕は鶴壁集窯(Zhang Bai in Complete Collection of Ceramic Art
まま残す。最後に透明、また時として緑の鉛釉薬を器全体に薄くかけ Unearthed in China, 12, Henan, Beijing, 2008, p. 199, no. 199 参照)、お
た。今回の出品作品では、ロット809, 819, 821, 827 にこの技法がみられ よび禹州の鈞台窯でも発掘されている(ibid., p. 198, no. 198参照) 山西省
る。この技法は非常に難易度が高く、時間もかかった。職人は、背景の の長治県郝家莊の金時代の墓から発掘された同様の虎型の陶枕に西暦
黒泥を取り除く際に黒泥の下の白化粧土に傷をつけないように細心の注 1155年に相当する日付があったこと(Zhang Bai in Complete Collection
意を払った。今回出品される陶器のうち、2点がラッパ型の口の尊形瓶 of Ceramic Art Unearthed in China, 5, Shanxi, Beijing, 2008, p. 77, no.
で、この技法と深い関係があることが多い。これらは、当時花のモチー 77参照)、また、上海美術館蔵の別の虎型の陶枕も西暦1162年に相当する
フとしても最も選ばれた、大胆な牡丹唐草文が描かれている。この尊形 日付を有していることから、この種のものは12世紀中ごろのものである
瓶2点は観台窯で発掘されたものと形状が非常によく似ているため、こ ことを示している。北京の宮廷博物館にも虎型の陶枕が数点収蔵されて
こで製作された可能性がある。 (see The Cizhou Kiln site at Guantai, op. いる. (The Complete Collection of Treasures of the Palace Museum, 32,
cit., colour plate IX, no. 2参照) 観台窯ではこの装飾技法が用いられた Porcelain of the Song Dynasty (1), Hong Kong, 1996, pp. 232, no. 209
陶器片が非常に多く出土しており、なかには装飾意匠の配置をしている and pp. 234-5, no.211参照).
ものもある。ロット827にはさらに珍しいフォルムと装飾配置がみられ
る。(ibid., colour plate XXI, no. 2参照) この有名な側壁の高い、ほとん 今回の出品作品の内3点は平行して描かれた水平方向の線と、抽象的な葉
ど円筒状で底が平らな器は、濃色の領域を多くとり、主要な装飾帯の大 や羽の模様の組み合わせの例である。(ロット830, 831, 837)これらは
きな花弁文は、幅広い黒の領域が白い帯状のエリアの両側に配され、特 特に深鉢や背の高い器の装飾文として人気があった。ロット831に近い
に印象的である。三角形状に上下交互に施された繊細な花弁のディテー 装飾の深鉢は禹県の扒村窯で発掘されており、また1959年に禹県の墓
ルは、これらの黒と白の花弁文に効果的なコントラストを与えている。 跡でも発掘されている。(Wenwu, 1960, no. 5, p. 87参照) 首の長い、反り
返った口の洋梨型の花瓶、ロット837はおそらく禹県周辺の磁州窯系の
磁州窯磁の大胆な黒と白のデザインをつくりだすもう一つの技法は、白 陶器を焼いた窯で作られたものだろう。類似の花瓶が扒村で発掘されて
化粧土の上に黒または濃褐色の文様を描きその上に透明、緑やターコイ いる。(Wenwu, 1964, no. 8, p. 33, fg. 11参照) このタイプの花瓶は1992
スグリーンの色を帯びた透明の釉薬をかけたものであった。この技法 年にも河北省渑池県で金時代の墓跡から発掘されており((illustrated by
は職人が筆を使用して描くことで、流動的な水墨画に近い効果が得ら Zhang Bai in CompleteCollection of Ceramic Art Unearthed in China,
れた。今回出品されている作品のいくつかにはこの技法が用いられて 3, Hebei, Beijing, 2008, p. 193, no. 193参照)、 また非常によく似た花
いる(ロット815, 830, 831, 835, 837, 841)。 抽象的、具象的な文様の描 瓶が、カンザスシティのネルソン&アトキンス美術館にも収蔵されてい
画装飾は新石器時代から中国陶磁に用いられてきた。最も古いものは、 る。 (Y. Mino and K. Tsiang, op. cit., pp. 174-5, pl. 75参照). ロット830の
すでに紀元前5000-3000ごろ、河南、山西 および陝西省で栄えた仰韶 見事な背の高い梅瓶は、おそらく禹県の窯で焼かれ、金時代に好まれた
文化でつくられていた。抽象的なモチーフとともに、仰韶の陶器装飾 タイプのものであることが明らかである。類似の梅瓶が北京宮廷博物館
職人は魚、動物、植物そして、人物を描くこともあった。釉下彩色装 に収められており(The Complete Collection of Treasures of the Palace
飾は3世紀ごろから中国陶器に用いられており、現時点では最も古い Museum, 32, Porcelain of the Song Dynasty (1), Hong Kong, 1996, pp.
ものは青磁釉の下に描かれたものとされている。三国時代(3世紀ご 166-7, no. 152参照)、また、このグループの瓶は世界各国のコレクシ
ろ)のものとされる青磁の蓋つきの壺が1983年に南京郊外で出土し ョンに所蔵されており、以下の文献に図版が掲載されている。(Mino
た。(Zhongguo wenwu jinghua daquan – taoci juan, 中國文物精華 and K. Tsiang, Freedom of Clay and Brush through Seven Centuries in
大全 – 陶瓷卷, Taibei, 1993, p. 196, no.50参照)この壺は肩に仏陀 Northern China: Tz’u-chou Type Wares, 960-16— A.D., op. cit., pp. 160-
と小枝を象ったレリーフが配され、釉下に仙人とそれを取り巻く 161, pl. 68 and fgs. 179-182参照)
雲が描かれている。唐代には多くの窯で釉下に絵付けを施す技
法が用いられていた。この時期の青磁器で釉下絵付のものが知 ロット815は、白地に黒の釉下絵付けの筆づかいの大胆さと、刻まれた
られている。なかでも西暦901年の臨汝鎮の墓跡から1980年 文様の繊細さ両方の魅力をあわせもつ。この花瓶の形状に、大きな花卉
に発掘された、有蓋の香炉と台、大きな同じく蓋つきの壺は 文装飾をあしらうのが12世紀に好まれたようである。さらに、2001年
よく知られている。(ibid., p. 229, no. 181 and p. 231, no. 187, に滄州市崔爾莊で発掘された類似の吐露瓶には、飛び交う昆虫が描か
respectively参照) 青磁釉の例はすべて酸化鉄を用いて装飾 れている。(Complete Collection of Ceramic Art Unearthed in China, 3,
されているが、長沙窯で焼かれた唐代の釉下絵付された Hebei, op. cit., p. 126, no. 126参照) さらにもう一点、3本の牡丹の枝で装
陶器には酸化鉄と酸化銅の両方が用いられていた。長沙 飾された吐露瓶が1984年に安陽の製薬工場で発掘された。(illustrated
窯磁の絵付けの主題は様々で人物、花、鳥、植物、楼閣 Complete Collection of Ceramic Art Unearthed in China, 12, Henan, op.
そして文字があった。また、唐時代、釉下絵付けの3つ cit., p. 190, no. 190参照) 牡丹の枝が描かれた類似の作品がMOA美術
めの釉下彩の原料として、コバルトブルーが用いられ 館、カンザスシティのネルソン&アトキンス美術館美術館、東京国立博
た。これは比較的小さな一群の白磁の絵付けに用いら 物館および佐野美術館にも収蔵されている。(illustrated by Y. Mino and
れ、鞏県窯で抽象的模様と草花模様を描くのに用いら K. Tsiang, op. cit., pp. 198-201, pls. 87 and 88 and fgs. 248 and 249,
れた。(R. Scott, ‘A Remarkable Tang Dynasty Cargo’, respectively参照) さらに同様の牡丹文瓶は観台窯でも作られ、緑の釉
Transactions of the Oriental Ceramic Society, vol. 67, 薬をかけられたものもあった。(Complete Collection of Ceramic Art
2002-2003, p. 14, fgs. 1-5参照). Unearthed in China, 3, Hebei, op. cit., p. 177, no. 177参照) この種の花文様
は観台窯の尊形瓶にも描かれている。(The Cizhou Kiln site at Guantai,
この釉下絵付けの伝統を磁州窯が継承し、さらに洗 op. cit., colour plate IX, no. 2 and black and white plate XXIII, nos. 1 and
練されたレベルに引き上げた。厚い白化粧土のうえ 2参照)
から厚い黒または濃褐色で描かれ、職人たちは水墨
画を彷彿とさせる非常に魅力的なものをつくりだ 磁州窯陶器は、そのフォルムと大胆な装飾の力強さに加え、その多様性
すことができた。この技法は観台や東艾口窯を含 と革新性から、制作当時から世界中のコレクターに愛され、興味が尽き
む磁州窯で取り入れられていた。今回の出品作品 ることがない魅力的な研究主題となっている。
Lot 830
拍品830號
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