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1 (大正 8)年 (昭和 20)年 定爾氏が東京府南葛飾郡 (現・江東区) に設立した東京鍍鈑製造所は、
Chapter 1
沿革編 沿革編
第 章 1919 1945
1912年、東京でも亜鉛鉄板メーカーが産声を上げていた。山内
ト タン
「
栄
山
片
人力を中心にした設備ながら高品質な「スター印」トタン板を生産し
ていた。これが後に「赤鳩印」へと発展していく。
亜鉛鉄板市場の形成
国産の亜鉛鉄板といっても、その原料となる薄鋼板・亜鉛・硫酸
明治から大正にかけての日本は欧米列強に追いつくため、さまざ などはすべて輸入に頼っており、潤沢な資金がなければ事業を継続
まな分野において近代化が進められていた。鉄をめぐる新素材もそ するのは困難であった。そこで、山内氏は取引先の鉄鋼問屋に出資
ブ リキ を求め、 77名の協力により1913年6月14日に東京亜鉛鍍金株式会
の一つであり、洋風建築などを通して亜鉛鉄板 (トタン板) や錻力な
一 どを知った日本は、それらを国内でも気軽に調達できるようにしよ 社へと改組、社長には森岡平右衛門氏が就任した。森岡平右衛門商 CHRONICLE
生 の 誕 商 店 」 うと格闘していた。 店は戦後に至るまで森岡商店、森岡興業株式会社として赤鳩印のト
CHRONICLE
薄鋼板の上にメッキを施した亜鉛は酸化被膜を形成し、傷ができ タン板販売を一手に引き受けることになる。 Ⅰ
片山栄 と 一 時代 の そ
た場合は鉄より先に腐食されることで鉄そのものを守る。当社とゆ
かりの深い亜鉛鉄板はこの性質を利用して開発されたもので、水に 片山栄一の大志
強く錆びにくいことを最大の特長としていた。
官営八幡製鉄所が亜鉛鉄板の生産を開始したのは1906 (明治39) 当社の創業者である片山栄一は1897 (明治30) 年2月9日、大阪に
年であったが、当時の技術は必ずしも満足したものとはいえず、供 生まれた。広島県の尾道出身の父・栄吉は1865 (慶応元) 年生まれで、 Ⅱ
大阪 日 ら へ 本全国 か
給を輸入品に頼る状況がしばらく続いた。そして、旺盛な新素材へ 栄一は父が32歳の頃にもうけた一人息子である。栄吉は40代後半
の需要は民間メーカーの参入を促した。 より視力を失い、手を引かれなければ出歩けなくなった。また、母・
メッキ
佐渡島伊兵衛商店が地金問屋を営む川合庄助氏とともに亜鉛 鍍 順は早くに亡くなったというから、栄一が困難な幼少時代を送った
株式会社 (後の大阪鉄板製造株式会社) を設立し、大阪・桜島で亜鉛鉄 ことは想像に難くない。
板の生産に着手したのは1911年5月のことであった。亜鉛鍍は試 貧しい家庭の子どもは高等小学校を終えると就職するのが普通で Ⅲ
片山鉄建 精神 の
行錯誤の末に独自で技術を確立し「月星」の商標で発売したが、資金 あった時代に、利発な栄一は市立大阪高等商業学校 (後の天王寺商業
が尽き、翌1912 (大正元) 年には岩井商店の出資を受けて仕入れ及び 学校) に進学し、国内有数の商社であった長瀬商店 (現・長瀬産業株式
販売に関する権利を委ねることとなった。 会社) に就職した。そして亜鉛鉄板に興味を抱いた。
その後、佐渡島伊兵衛商店から独立して佐渡島西店を起こした佐 米国の港で亜鉛鉄板が船積みされると市況が動く。そのため、早
渡島英祿氏は、田中徳松氏らと日本亜鉛鍍株式会社 (後の日亜製鋼) く情報を掴めばそれだけで大儲けできたが、不運な場合は被る損害 Ⅳ
市立大阪高等商業学校(出典:『大阪府写真帖』
の設立に参画した。その前身は、田中氏が1908年に家族と立ち上 も大きかった。亜鉛鉄板は商人としての敏捷さが試される、厳しい 1914 年、国立国会図書館所蔵) 近年 の 片山鉄建
げた小さなメッキ工場であったとされる。だが、諸事情により佐渡 ながらも魅力的な商材であり、その売買はまた世界とつながりを持
島氏自身は日本亜鉛鍍からも手を引くことになる。 つことのできる大きなビジネスであった。
いたちぼり
急速に発展した立売堀・新町
第
1914 (大正3) 年、オーストリア皇太子の暗殺により欧米諸国は第 1
章
一次世界大戦へと足を踏み入れ、日英同盟を結んでいた日本も参戦 「
する。戦争による特需は日露戦争後に起こった日本経済の低迷を打 「 「
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開するとともに、欧米列強の力が手薄になったアジア諸国に日本企 「
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業が進出する契機も伴った。朝鮮、満州への渡航が自由になったの 「
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大阪市の煙筒と煤煙(出典:『大阪府写真帖』1914 年、国立国会図書館所蔵) もこの時期で、同時に地方との取引も活発になり、鉄鋼問屋の商売 「 「
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